解説

システム開発の見積もり工数算出は、高い専門知識や豊富な経験が求められるため、属人化しやすく、情報システム部門の業務負荷となりやすい領域です。

この度、大手金融機関である明治安田生命保険では、こうした見積もりプロセスをAIエージェントを活用して効率化するPoC(概念実証)を実施しました。単に自動で工数を算出するだけでなく、チャット形式の対話を通じてユーザーから要件を引き出しながら、過去の案件情報に基づいて検討支援を行う仕組みが検証されています。

この記事からは、複雑な業務プロセスをAIとクラウドサービスを組み合わせて改善する具体的なアプローチが確認できます。自社でも「特定のプロセスの負荷軽減」や「属人化解消」といった課題がある場合、どのように技術を適用できるか参考になる情報となるでしょう。

ポイント

  • 明治安田生命保険が、専門性が高く負荷が高かったシステム開発工数の見積もり業務にAIエージェントを活用したPoCを実施。
  • 過去のシステム案件情報をSalesforceなどのクラウドサービスに蓄積し、チャット形式の対話を通じて要件を整理・抽出する仕組みを実現。
  • 2026年度中の全社的な本番運用を目指しており、情シス部門における業務プロセスの変革事例として注目される。

情シスへの影響

  • クラウド上のデータ蓄積基盤(CRM/SFA等)の設計と、過去プロジェクト情報の標準化が不可欠です。

  • AIエージェントを組み込むことにより、単純なデータベース検索から、ユーザー入力(自然言語)に基づいた多段階の推論ロジックが必要になります。これにはプロンプトエンジニアリングやベクトルデータベースなどの高度な技術要素が含まれます。

  • 既存のワークフロープロセスがAIによる自動化・提案機能によって根本的に変わるため、新しい承認ルートやデータ参照ルールなど、ガバナンスの見直しが必要です。

影響範囲

  • 環境: クラウドサービス(Salesforce等のSFA/CRM)および外部に散在するプロジェクト文書データベース。

  • データ: システム開発案件の仕様書、過去工数実績データ、要件定義情報。データが構造化されていない「非構造化データ」からの抽出精度に依存します。

  • 機能: ユーザーインターフェース(チャット形式)、知識検索エンジン(RAG機能)、算出ロジックを実行するワークフロー。

重要度

★★★★☆

対象者

  • M365管理者
  • Entra管理者
  • セキュリティ担当者
  • ヘルプデスク担当

優先度

早めに対応

優先度の理由

本事例は、情シスが抱える普遍的な課題(専門知識依存による高負荷)に対し、AIとクラウド技術で対処する成功例を示しており、自社の業務改善計画策定の着想源となり得ます。悪用された脆弱性対応ではないため緊急性は低く、「早めに対応」として、自社プロセスの洗い出しから着手することが適切です。

確認手順

  • 現在のシステム開発案件において、「誰の知識」が必須であるか、ボトルネックとなっている業務プロセスを特定する。
  • 過去のプロジェクト関連文書(仕様書、議事録など)の収集・ラベリングを行い、データベース化できる範囲と量を計測する。
  • 利用中のクラウドサービスで提供されているAI機能を調査し、ファイル参照やデータ結合に関する機能がどのレベルまで実現可能かを確認する。
  • 工数算出ロジックを形式知化(ルールベース化)し、機械学習・エージェント連携の入力パラメータとして整理する。

推奨対応

  • まずは情シス部門内で「最も属人性が高い」と認識している業務プロセスを選定し、プロセスのマッピングから着手してください。
    その上で、必要なデータ(情報資産)を特定し、クラウド上の単一の情報源に集約するためのデータベース設計(DWH化など)の検討を開始することが最優先です。
    AI技術については、すぐに本番導入を目指すのではなく、「情報を探し出す手間」や「初期のリファレンス提示」といった段階的な自動化からPoCを始めることを推奨します。